多元的なリスクをめぐる
個と共同性に関する学際的研究
―移民・難民・災害避難民を軸に
「ミクロヒストリーから読む越境の動態」が
刊行されました
(王柳蘭・山田孝子編著/国際書院/2023年3月)
移民・難民など越境者が受入国で生み出す社会的結びつきと相互の差異を通して、故郷と帰属をめぐる重層性の課題を追究し、「個をめぐる生の物語」をたどり「人間存在」を浮き彫りにする。
定価 (本体3,500円 + 税)/ISBN978-4-87791-320-5 C320/341頁
序章 王柳蘭*・山田孝子*
第1部
第1章 瀬戸徐映里奈、第2章 飛内悠子、第3章 山田孝子*
第2部
第4章 村橋勲*、第5章 加藤裕美*、第6章 下條尚志
第3部
第7章 中山大将*、第8章 藤本透子、第9章 王柳蘭*
*印は当該プロジェクトのメンバーです
詳細は出版社HPをご覧ください。
同志社大学人文科学研究所第106回公開講演会
「越境者をめぐる<故郷>と<境界>:
個の物語から考える」
日時 2023年7月8日(土)午後13:30 ~17:00
(開場13:00)
会場 同志社大学良心館
RY407室(来場定員50名)またはZoom (約80名)
京都市営地下鉄烏丸線「今出川」駅1番出口から徒歩1分
対象 学生・一般
参加無料・要申し込み参加申し込みフォームまたは往復ハガキ(住所・氏名・電話番号・Zoomで受講希望の場合はメールアドレスを明記)でお申し込みください。
<参加申し込みフォーム>
https://forms.office.com/r/gQDEMh6vKA
<往復ハガキのお申込み先>
〒602-8580 京都市上京区今出川通烏丸東入同志社大学人文科学研究所
【締切】申し込みフォーム:7月6日(木)
往復ハガキ: 7月4日(火)必着
プログラム
第1部:個別発表[13:30 ~15:40]
13:30 開会・挨拶・趣旨説明
中山大将(釧路公立大学経済学部 准教授)
「慰霊碑が語ること語らないこと―日ソ戦争が生み出した樺太住民の故郷喪失」
下條尚志(神戸大学国際文化学研究科 准教授)
「小さな歴史」から「大きな歴史」を問い直す―ベトナム多民族混淆社会の一家族から考える20世紀」
王柳蘭(同志社大学グローバル地域文化学部 准教授)
「中国ムスリムの末裔・パンロン人たちの声―雲南・ミャンマー・タイを越えて」
村橋勲(静岡県立大学国際関係学部 助教)
「故郷とアイデンティティを希求する―ウガンダにおける南スーダン人の経験と語り」
第2部:総合討論・コメント[15:50 ~17:00]
司会 王柳蘭(同志社大学グローバル地域文化学部 准教授)
コメンテーター 山田孝子(京都大学名誉教授)
ワークショップはたくさんの方々に参加いただきました。
ありがとうございました。
同志社大学人文科学研究所 第99回 公開講演会
多文化な日常における防災
―『いつも』と『もしも』をつなぐ
日時: 2021年6月13日 14:00-17:00
開催方法: ZOOMによるオンライン開催(定員100名)
参加申込フォーム:
受付は終了しました。
【申込締切】2021年6月10日(木)
主催: 同志社大学人文科学研究所
多元的なリスクをめぐる個と共同性に関する学際的研究
―移民・難民・災害避難民を軸に
外国人の流入と定着化がますます進む日本社会において、多文化共生のための政策整備とその実践は喫緊の課題となっています。その一方で、阪神・淡路大震災や東日本大震災以後、高齢化と人口流出や産業の衰退などが相互に影響しあい、コミュニティの弱体化や災害脆弱性が指摘されています。
本研究会では、こうした状況の中、①これまで海外で調査してきたフィールドワークの知見をいかし、「災害への備え」をキーワードに、多様化する日本における海外からの移民の課題とニーズを引き出していくこと、②日常と災害時といった「もしも」の事態において、外国人と地域住民が互いを知り、自助・共助を生み出していくシクミを共に考えていくことを目指しています。
こうした知見を地域研究者、人類学者と防災研究者のみならず、NPO等の市民団体と共有し、防災と日常をシームレスにつなげ、多様性を包摂した持続可能なセーフティネットとあらたなコミュニティの在り方について研究を進めています。
第13研究 多元的なリスクをめぐる個と共同性に関する学際的研究
代表: 王 柳蘭
「つながり」の構築が力となるリスクへの対処
今日、私たちは様々なリスクに向き合いながら暮らしています。実際、地震、台風、河川の氾濫、崖崩れといった従来からの自然災害のみならず、グローバル化による新たな感染症の流行-直近では新型コロナウイルスによる感染拡大-といった人為的災害など、多様な災害に見舞われる危険性が常態化しています。しかも、大きな人為的環境破壊をも引き起こす災害は、個人として対処できる規模を遙かに超え、コミュニティとしてだけではなく、地方・中央政府として対処しなければならなく、社会的不平等を増大させる被害からの復興に対する国家の支援も不可欠となっています。
一方、東日本大震災に被災した地域で、コミュニティとしてのまとまりが強く維持されていた町や村では復興が早く進んだといわれてきました。また、1年以上におよぶ新型コロナの感染拡大では、地方・中央政府一丸となって「密な接触回避」が叫ばれ、経済支援が行われるなか、インターネットを駆使した新たな「つながり」の形も生み出されてきています。平時における「つながり」の共同性は災害時の対処に大きな力になることや、「つながり」への希求は消え去ることはないことが分かります。
人類学の研究は、人間社会が社会生態的条件に合わせながら、互いの信頼性を作りあげる有機的・機能的装置となる顔と顔を合わす場や機会を設け、家族、親族、地域といった様々なレベルでの「つながり」を構築してきたことを示してきました。互酬性に根ざし、互いに次世代をも見守りあう家族を越える「つながり」の共同性は、互いの信頼を育み、安心できる暮しへの出発点となります。また、ナオミ・ザック(2020:43)が『災害の倫理』のなかで示唆するように、家族を越える共同性を平時から構築しておくことは、「連帯」、「協働性」、「利他性」が核となる倫理的・道徳的価値の共有を育み、災害への技術的対処を補完し、そこからの復興への近道になるといえるでしょう。
山田 孝子